清水次郎長伝あらすじ

<第一話「次郎長と法印大五郎」>

〽︎春の旅
花は橘 駿河路行けば
富士のお山は春霞
風はそよ風 茶の香が匂う
唄が聞こえる 茶摘みの唄
赤い襷に 姐さん被り
娘二八の艶姿
富士と並んで その名も高い
清水次郎長 街道一よ
命一つを 長脇差に
かけて一筋 仁義に生きる
噂に残る 伊達男〽︎

安政二年(西暦1855年)の四月半ば、次郎長が江尻(現・静岡県静岡市清水区)の渡世場(なわばりの賭場のこと)を見回っていると、大勢の子分たちが、ひとりの男を胴上げにして巴川(清水市街から清水港に注ぐ川)へ放り込もうとしている。

子分たちにその訳を聞くと、賭場荒らしだという。

次郎長は、男の身柄を引き受け、子分たちを賭場へ戻す。

男の拘束を解いてやり、名乗る次郎長

〽︎盲縞の長半纏
やまの入った平絎を
腰のあたりでヤクザに結び
乞食芝居の法界坊か
イガグリ頭で毛むくじゃら
垢に汚れて目ばかり光る
男を連れて富士見橋
かかれば風に 緑の柳が招く
水に影曳く 巴川〽︎

男を連れ、軽口を叩きながら富士見屋という茶屋旅籠にやってきた次郎長。

離れへと案内される。

〽︎窓を開ければ港が見える
浴衣染めたい青い海
船は千石入船出船
碇おろした船の数
潮の香誘う わたつみ(海神)の
空に浮かびし富士の山
嶺の白雪いつしか溶けて
誰に見しょとて春化粧
墨絵のような三保の松
沖の白帆が夢心地〽︎

次郎長は、十日も湯に入っていないという男を風呂に入らせ、その間に女中に一両をやって、着物などを用意させる。

湯から上がった男は酒好きとみえて、言葉巧みに次郎長に酒をねだる。

男は、出羽羽黒(現・山形県の羽黒山)の法印(僧位)で平山寛山、もっともいまはやくざ者となり、武居安五郎の子分で法印大五郎という。

なぜ清水で自分の賭場を荒らしたのか問いただす次郎長。

男が言うには、小遣い稼ぎに覗いてみたところ、思いのほか大きな賭け事をしていたので、驚いた。

手持ちの金が一両二分しかないので困っていたら、次郎長の子分の小政が罵声を浴びせてきたので喧嘩になったという。

それを聞き、ささいな喧嘩だと知った次郎長は、大五郎の親分・武居について大五郎に尋ねる。

すると、大五郎は武居は「人の皮を着た畜生」だと言う。

親分の悪口をいうことが許せない次郎長は激昂して大五郎を問いただすと、その訳を語りはじめた。

大五郎が甲州(現・山梨県)にいたころ、兄弟分に小五郎という、侍崩れの男がいた。

その小五郎が、一ヶ月ばかり旅に出たあいだ、小五郎の女房・お島が男をつくったという。

小五郎は、二人とも叩っ斬る、と大五郎に助太刀をたのみ、大五郎は小五郎の家の裏手に控えていたところ、大きな物音がしたので障子に穴を開けて覗いたところ…

 

<第二話「次郎長出立」>

〽︎中をのぞいて驚いた
二つ枕の寝乱れ姿
赤い布団にどっかりと
女を引き寄せ大あぐら
それにひきかえ 小五郎は
畳に両手をついたまま
間男されて詫びている
どうしたことかと呆気にとられ
も一度よく見て二度びっくり
武居の吃安 鬼より怖い
ドドと吃れば人を斬る
歌の文句に名も高い
これが武居の安五郎です〽︎

※吃安…吃音であったことから安五郎につけられたあだ名

なんと、小五郎の女房・お島と間男したのは、大五郎の親分・武 居安五郎であった。

安五郎は、小五郎とお島が、元のお島の夫を殺害して五十両を盗み駆け落ちした過去を持ち出して開き直る。

小五郎は平身低頭、お島を安五郎に譲る代わりに、いままでどおりの親分・子分の関係でいさせてほしいと懇願する。

安五郎は小五郎に十両渡すも、小五郎から一部始終を聞いた大五郎は、十両を安五郎に突き返し、啖呵を切って逃げてきたという。

〽︎さも悔しげに語るの
酒飲みながら聞いていました次郎長が
持った杯その場に置いて
心のうちに思うのは
切っても切れない血筋の縁
甥の増川仙右衛門に
親の敵を討たせたさ
足掛け4年丸3年
訪ね探した敵の行方
思いがけなく知れたのも
死んだ仏の 導きか
これというのも 善因善果
人は助けておきたいものよ
巡り巡りて 我がためよ〽︎
次郎長は大五郎に、お島は年頃三十二、三の、背の高い、左の目の下にほくろのある女ではないか、と尋ねる。

なぜ知っているのかと、驚く大五郎。

実は、小五郎とお島が殺害したという元の亭主は、江尻の魚問屋・増川佐太郎といい、次郎長の姉の夫(お島は佐太郎の後妻)であったのだ。

次郎長は、佐太郎の息子で甥にあたる仙右衛門に仇討をさせたいと、小五郎とお島の行方を三年追っていた。

大五郎に、甲州にいる小五郎とお島の元へ案内するように頼む次郎長。

しかし、大五郎は半年待てという。

十月二十三日から十月いっぱいまで行われる遠州秋葉(現・静岡県浜松市)三尺坊の火祭りには、関東一帯の貸し元連中が集まる。

武居と子分の黒駒勝蔵が、小五郎を用心棒代わりに連れてくるから、そこに次郎長と仙右衞門も出向き、大五郎が小五郎を騙して山の麓に呼び出し、そこで斬るという計画を持ちかける。

次郎長は、大五郎の計画どおりにすることにした。

大五郎は、次郎長の子分になりたいと杯をねだり、次郎長はそれを快諾する。

家に大五郎を連れて帰った次郎長は、仙右衞門に顛末を話すと、仙右衞門は泣いて喜んだ。

以後、大五郎は次郎長の子分となり、仇討の約束をした十月になったが、秋葉の祭りがはじまる二十三日になっても次郎長に動く気配がない。

訝しんだ大五郎は、次郎長に真意を問いただすと、仇討をして血が流れれば、祭りは中止になってしまう。

そうすると祭りで稼ぎを当てにしてきた堅気連中に迷惑がかかるから、あらかたの物が売り切れたころの二十八日に出立するという。

〽︎明けの朝になりますと
勝って勝栗 よろ昆布
敵討ち熨斗 冷酒に
門出を祝い三人が
清水を後に東海道
駕籠を飛ばして駿府の城下
過ぎりゃ安倍川手越の河原
名物丸子のとろろ汁
夢かうつつか宇津ノ谷の
蔦の細道峠を下りゃ
岡部藤枝島田もいつか
人の背で越す大井川
願い金谷の喜びに 仇の便り 菊川の
立場へ来れば 秋の陽は
はや日坂に傾いて 袋井宿の宵あかり〽︎

三人が秋葉山に着くと、大変な賑わい。

 その晩は仲屋という宿屋に泊まり、翌朝支度をして宿屋を出た。

〽︎まず次郎長の出で立ちは
渋い結城に一本独鈷の博多帯
手綱染めの 上三尺
五字忠吉の長脇差 腰に手挟んで
薩摩絣の廻し合羽
後に続いた二人は 鉄色無地の半合羽
合羽に余る 銀鐺
面を包む 三度笠 足ごしらえも厳重に
人目を避けて 参道行けば
素肌にしみる秋の風
仰ぐ秋葉の杉木立ち〽︎

 

<第三話「秋葉の仇討」>

法印大五郎の案内で、増川屋佐太郎を殺した神沢小五郎がいる武居の賭場を訪れた次郎長と甥の仙右衛門。

二人が今にも乗り込もうとするところ、大五郎が止める。

大五郎は、自分が小五郎を騙して二人のもとに連れて来るから、二人は松の木のところで待っていてほしい。

頃合いを見計らって大きな声で「渡したよ」と言うから、その時は小五郎を受け取ってほしいと頼む。

それではまるで荷物だと

〽︎笑いながら 二人が
またも山を 下って行けば
あとに法印 ただ一人
揉み手に 中腰
にこにこ笑う 武居の賭場〽︎

賭場に入った大五郎は、小五郎との久しぶりの再会を果たす。

大五郎は、小五郎の口利きで親分に詫びを入れ、甲州(現・山梨県)に戻りたいと頼む。

親分は飛び出して行った子分の大五郎のことを常日頃話している、お安い御用と、小五郎はその頼みを引き受ける。

大五郎は、久しぶりで親分に会うのに手ぶらでは申し訳ない、山の麓で良い土産を見たと話し始める。

〽︎山の麓の 松並木
から手を組んで ただ一人
おいらぶらぶら 歩いていたら
勝負勝負と 声がする
こんなところでおかしいなと
脇を見たら 汚い寺
窓の障子の 破れから
ひょいと中を 覗いてみれば
堅気の旦那が 集まって
丁よ半よの真っ最中〽︎

旦那方を脅して場銭の二百両をさらおうと飛び込もうとしたが、用心棒に強そうな侍がいて入り込めない。

ついては、腕も度胸もある小五郎に、侍を斬りつけてほしいと頼み、百両を親分の手土産にし、残りの百両を小五郎にやると約束する。小五郎は喜んで引き受ける。

〽︎六尺豊かで 大髷
酒飲むせいか 赤ら顔
黒紋付の 着流しに
朱鞘の大小 落とし差し
欲に目のない 小五郎を
誘う法印大五郎
大と小とが 肩比べ
にっこり笑った 法印が
心の内で 思うのは
犯した罪とは 言いながら
己の首が 無くなるの
夢にも知らず 喜んで
ついてくるのも 欲のため
馬鹿は死ななきゃ 治らない
虫が知らすか 小五郎め
なんとなくして 歩みにくい〽︎

虫の知らせか小五郎は歩みを止める。気づかれてはならないと、大五郎は大きな声を出す。

〽︎大きな声を出したのは
次郎長に 聞こえるよう
ひょいと眺めた 次郎長が
にっこり笑えば 仙右衛門〽︎

次郎長は仙右衛門に、太刀が敵の体に入るまで、自分は助太刀しない、度胸が肝心だと教える。

大五郎が大きな声で「渡したよ」。「受け取った」と、次郎長はゆっくり出てくる。

急なことに驚く神沢小五郎に次郎長は名を名乗り、仙右衛門を呼び出す。

自分を討ちに来たのだと知った小五郎は長脇差を抜き、斬ってかかる。

秋葉の山に火花が散り、見事仙右衛門は小五郎を討つことができた。

 

<第四話「名古屋の御難」>

秋葉の火祭で、義理の兄・増川屋佐太郎の仇、神沢小五郎を斬った増川仙右衛門と法印大五郎。

次郎長は小五郎の首を斬り、仙右衛門と大五郎はその首を持って下山する。

後に残った次郎長は、武居安五郎の泊まっている宿に乗り込み、お島を斬り殺す。

次郎長と武居が一触即発のところ、伊豆の大場の久八(本名・森久治郎。江戸時代後期の博徒で、伊豆の大親分)、甲州紬の文吉(本名・津向文吉。甲斐国(現・山梨県)で活動した甲州博徒の一人)、東海道藤枝の長楽寺清兵衛(本名・杉本清兵衛)ら貸元(賭博場の経営者)が止めに入る。

秋葉山は神あらたかな名地、喧嘩をして多くの人に迷惑をかけてはならないという貸元らの言葉に、次郎長は長脇差を鞘に収めて詫びる。

安五郎は、「秋葉山という神様に免じて手を引くが、この先どこかで会ったら次郎長の首は必ず貰う」と啖呵を切ってその場を後にする。

これが縁となり、伊豆の大場の久八の仲立ちで、甲州紬の文吉と次郎長は兄弟分の盃を交わす。

また、この一件が大きな評判になり、次郎長は男を上げる。

しかし、秋葉山を血で汚した神罰か、次郎長は清水にいることができなくなり、安政二年(西暦1855年)の十月末、女房のお蝶と、子分・遠州森の石松を連れて清水港を旅立つ。

旅の間にお蝶は病み患い、次郎長が持っていた路銀は盗まれてしまう。

清水港を出立して約一ケ月半、尾張名古屋の出町を歩く三人は満足に飯も食べられずに難儀をしている。

次郎長は、国之助という貸元の子分を以前世話したことを思い出し、国之助に世話になろうと清州へ向かおうとする。

と、向こうから

〽︎笑いの折しも あなたより
まいりましたる 一人の男
縞目のわからぬ 汚い半纏ただ一枚
猫の百尋みたいな 帯しめて
汚れた手ぬぐい 頬かぶり
冷飯草履に 身を乗せる
見るからにして 怪しい男
次郎長前まで 来るなれば
歩みの足を ぴたりと止めて〽︎

※猫の百尋……猫のはらわた。よれよれのくたびれた帯の形容。
※冷飯草履……緒も台も藁で作った粗末な草履。

汚らしい男が次郎長の前に立ち、足元から顔までをずうっと見上げ、首をかしげて行ってしまう。

次郎長はもしや追っ手ではないかと思ってみたが、男が大人しいので自分も行こうとする。

〽︎行かんとなせば かの男
またも戻って 次郎長前〽︎

またずうっと顔を覗いては首をかしげて行こうとする。

〽︎一度ならいで 二度までも
やられてみれば 次郎長も〽︎

次郎長は男を呼び止め、人違いなら人違いだったと一言言ってくれと言う。
男は素直に謝り、命の恩人の次郎長親分と人間違いをしたと詫びる。

次郎長は、身なりはすっかり変わっているものの、自分が次郎長であると名乗る。

この男は、六年前、清水港で世話をした尾張名古屋鍋屋町の小川の勝五郎であった。

勝五郎は、難儀をしている次郎長一行に恩返しをしたいのはやまやまだが、今は自分が食べていくので精いっぱいで、とても世話することができない。

しかし黙って素通りすれば、「次郎長のなりが汚いから口もきかずに行った薄情な奴だ」と言われるのではないかと思い、次郎長に声を掛けたと語る。

次郎長は、「世話になるよりもその言葉が有り難い。自分が清水へ帰って元の体になったときはまた世話してやる」と約束し、別れたとたん、

〽︎行かんとなせば 女房は
またも差し込む 持病の癪
あっとばかりに 苦しめば
石松驚き 駆け寄って
姐御の体 抱き上げて
姐さん しっかりしてください
次郎長とても その通り
お蝶や しっかりしてくれよと
叫ぶ声が 行かんとなした勝五郎の
耳に入れば 勝五郎も
なんの行かれてなるものか
後ろ髪 とって引かれる 心地がする
またも戻って 次郎長前
大地へ 厭わず両の手つき〽︎

勝五郎は、「お蝶の病気の治るまで、飯を用意をし、薬も飲ませるから、乞食にも劣る汚い家だがどうか我慢してもらいたい」と、次郎長一行を迎え入れる。

 

<第五話「勝五郎の義心」>

勝五郎は、次郎長・お蝶・石松を鍋屋町の自分の家に招く。

〽︎昔の恩が返したさ
三人連れて勝五郎が
戻りましたよ 鍋屋町
さあ貸し元 お入りよと
言われて次郎長 驚いた
九尺二間の棟割長屋
障子は破れ唐紙破れ
畳までが破れてある
蛆が湧きそうな汚い家だが
勝五郎の心の内がありがたい
落ちぶれて袖に涙のかかる時
人の心の奥ぞ知られる
側にいました 石松め
そんなことは頓着ない
生まれついて乱暴者
大きな声を張り上げて〽︎

汚い家だと叫ぶ石松を次郎長はたしなめる。勝五郎が貧乏ながらもなんとか工面して飯を用意すると、次郎長は嬉し涙を流して食べる。

勝五郎は医者を呼んでお蝶を診てもらうが、診断はあまり良くないものであった。勝五郎は恩義を受けたお蝶のために身を粉にして働き、食べ物を買ってくる。

〽︎何かしらんは 持ってはくるが
次第によっては 帰ってこない晩もある
ちょうどそれから七日目の
ある夜のことに三人は
いつまで待てど 勝五郎の帰りがない
床をのべて 横になる
夜中時分に 次郎長は
何か夢でも 見たのかして
ガバとばかりに 跳ね起きる
布団の上へどっかと座る
お蝶の寝顔を見ていたが
変われば変わる このまぁ やつれし姿よ
世が世であれば 江尻の町で
一と言われた 穀問屋
一人娘に 生まれながら
何が因果か 次郎長と
夫婦になった ばっかりに
かかる苦労をかけるのだ
もうしばらくの辛抱だ
許しておくれ これお蝶と
義には強いが 情けにゃ弱い
女房想いの 次郎長だもの
この時ばかりは
思わずわっと 男泣き
脇で寝ている 石松め
そんなことも 頓着ない
名代なりける 唐土の
白河を夜船で下る 櫂の音
ひょいと眺めて 次郎長は
落つる涙を 拭きながら
持つべきものは 良い乾分〽︎

次郎長は石松のいびきがうるさくてお蝶が起きるのではないかと心配し、石松を起こす。起こされた石松は冗談を言う。

〽︎憂いのうちに にっこりと
笑う石松 可愛い男
血の繋がりは ないけれど
縁も深い 親分に
尽くすヤクザの 心意気
その夜は過ぎて 明けの朝
破れ障子に 白々と
照らす仄かな 朝日影
表に立った 勝五郎〽︎

帰ってきた勝五郎は三人に食事を用意する。

勝五郎が医者に相談しに行くと、お蝶はあと二十日ももたないという診断が下る。「二十両の金で御殿医者に診てもらえば良い薬を飲ませることができ、事によったら治るかもしれない。二十両が出来たら御殿医者にお蝶のことを頼んでやろう」と医者は言う。

勝五郎は二十両を用意するため一計を考え、石松を連れて出掛ける。

 

<第六話「長兵衛の義侠」>

勝五郎は、自分が清水港にいた頃の話を石松に聞かせる。

清水港で相撲の興行があったのだが、雨に降られて日延べが重なる。
借金がたまって清水を発つことができなくなった大関・八尾ヶ岳惣七(やおがたけそうしち)が二十両の金を借りに次郎長宅を訪れる。そのとき次郎長は留守だったため、お蝶が自分の大事な品を質に入れて二十両を作り、八尾ヶ岳に貸してやった。

それから一年ほど経って、八尾ヶ岳が友達の金二百両を使い込んで困っているところを次郎長が助ける。

八尾ヶ岳は相撲を辞めて伊豆大場の久八(きゅうはち)の子分となり久六(きゅうろく)と名を改め、尾張の知多郡保下田村(現在の愛知県知多郡半田市の一部)に住んでいる。久六の妹・おとせが、亀崎の代官・竹垣三郎兵衛(たけがきさぶろべえ)の本妻になったため、久六は竹垣三郎兵衛と義理の兄弟となり、十手捕り縄を預かる身分となる。今では子分を大勢従え、博打打ちをしながら岡っ引きの仕事もしている。

勝五郎は、久六にお蝶が患っていることを言えば、昔の恩義があるからきっと金を貸してくれるはずだ、と石松に話す。

〽︎聞いて石松 胸躍らせ いま勝五郎の いう通り
保下田へ行って 久六が 見舞いの金を くれたなら
重い病の 床のつく 明日をも知れぬ 姐さんを
せめて上手な 医者にかけ 心残りのないように
できる限りの 手当がしたい そうしてあげれば もしもの場合
寿命が尽きたと 諦めよう お蝶を思う 一念に
心いそいそ 名古屋を後に 肩を並べて 二人連れ
六里の道もなんのその 急げばここは 知多郡
亀崎在が 保下田村 久六宅の 表の方
歩みを止めた 二人が〽︎

呼びかけると、中から若い者が出て来る。勝五郎は石松を外で待たせ、若い者に案内され、保下田の久六と対面する。勝五郎は自分の家に次郎長とお蝶が身を寄せていることを話し、病気のお蝶を助けるための金を貸してくれるよう、久六に頼む。

しかし久六は、次郎長のことを博打打ちのゴミだと貶し、今度次郎長と会ったら御用と召し取って苦しめてやるから、早く次郎長を尾張から追い出せと勝五郎に告げる。

勝五郎は久六を、昔の恩を忘れた畜生野郎だと思い、久六と縁を切って表へ出る。石松は勝五郎から事情を聞くと、

〽︎カッと怒れば 向こう見ず よくも親分 次郎長の
恩を忘れて 悪口を 並べた挙句 畜生呼ばわり
もう勘弁が ならねえと 火玉のような 勢いで
名刀 池田鬼神丸 柄を叩いて 今飛び込もうとした時に
どうか勘弁してくれと おろおろ止める勝五郎
ハッと気がつきゃ 瞼の裏に 病んで窶れた 姐さんの
明日をも知れぬ 哀れな姿 それを思えば 手出しもならず
歯を食いしばり はらはらと 流す無念の 血の涙〽︎

勝五郎は、久六に喧嘩を売れば必ず子分たちが仕返しに襲いに来る、そうなれば患っているお蝶を守ることができない、どうか我慢してくれるようにと、石松をなだめる。石松は、尾張という国は薄情な人間が揃っているものだと、ずんずん先へ歩いて行く。

〽︎あと追ってきた勝五郎 気の毒そうに 慰める
それを邪険に 突きのけて やけのやんぱち 大声で
尾張のやつは 薄情だと どなりゃ 後ろに立つ男
四十を越えた 分別盛り 腰に手挟む 一本刀
姿は粋な ヤクザだが どこか備わる 品の良さ
尾張名物 名古屋の城の 金のシャチホコ 今ひとつ
義理と情けの 深見村 土地が自慢の 貸し元で
あだ名 鯱鉾長兵衛とて 花も実もある いい男〽︎

深見(現在の愛知県豊田市の一部)の貸元・鯱鉾長兵衛(しゃちほこちょうべえ)に呼び止められた勝五郎は、大声でどなったことを詫び、石松を紹介する。長兵衛は石松にどなっていた訳を聞き、事情を知る。

長兵衛は、尾張に住んでいながら、久六の腐った根性を知らなかったのか、と勝五郎を叱る。
長兵衛にも、むかし次郎長に世話になった恩があり、どんなに金が掛かってもお蝶の病気を治すと引き受け、次郎長たちと勝五郎は明日自分の元へ来るようにと言う。

勝五郎と石松は長兵衛の義侠に感謝する。それに比べて久六という男は、

〽︎恩を忘れた 憎いやつ 懲らしてやるは 訳ないが
田舎相撲の 昔と違い 乾分の数も 四百あまり
十手捕縄 預かって 今じゃ日の出の 勢いで
羽振りを利かせる 御用聞 心ねじけた やつだけに
それを遺恨に 悪巧み 兇状もつ身の 親分に
もしも難儀が かかったら 姐御がどんなに 嘆くだろう
それを思えば 手出しはできぬ じっと我慢は したものの
悔しぅござんす 親分と 鬼をも挫く 石松が またもハラハラ 男泣き〽︎

帰った石松が報告すると、次郎長はよく我慢してくれたと涙を流して石松を褒める。

<第七話「お蝶の焼香場」>

鯱鉾長兵衛の家で次郎長一行は世話になるが、安政三年(西暦1856年)の元日、看病の甲斐なくお蝶は息を引き取る。
次郎長は、お蝶の亡骸を長兵衛の旦那寺に葬ってもらえないかと頼む。長兵衛は頼みを引き受け、次郎長と自分の名前を書いてお蝶の死を知らせる回状を流す。知らせを受け取った者からは世話になった礼のしるしに莫大な香典が集まってくる。

大勢の親分たちも集まってお蝶を弔う。中でも、次郎長の親類頭・伊勢小幡の武蔵屋周太郎は次郎長の名代として葬式を切り盛りする。
焼香が済んで会葬人も帰ったあと、周太郎は深見村鯱鉾長兵衛に向かい、ある二人の人物が葬式に現れなかったと言う。

〽来なくちゃならねぇ 二人は
同じ尾張は 知多郡
一人は常滑 兵太郎
一人は保下田の 久六と
知ってはいれど 長兵衛は
生まれついての 利口者
わざと笑って 知らぬ顔〽

石松は、恩義を返さない一人は保下田の久六だと怒鳴り、久六の元へ斬り込もうとはやる。

〽姐御が死んで 四十九日の逮夜が済み
線香の煙が絶えると同時
わたしゃ乗り込む 保下田村
火玉となって 斬り込んで
きっと恨みを 晴らします
清水一家の 石松は
たとえ身分は 三下でも
二枚の舌は 使いませぬぞ
思い出すさえ 悔しさに
声震わせて 語るとき
清水港の次郎長が
渡り廊下を しずしずと
本堂さして 歩みゆく
紋付袴 片手に数珠
色浅黒く 鼻筋通る
きかぬ気性が ほのかに見える
苦労の果てか 窶れているが
さすが備わる 貫禄は
街道一の 男伊達
眺めて一同 丁寧に
頭を下げて 声揃え〽

悔みを述べる貸元たちの前で次郎長は、大声を出して血気にはやる石松を諫める。

周太郎は、久六に畜生呼ばわりされてなぜ黙っていたのか、次郎長に問い詰める。

次郎長は、ある日久六から届いた手紙のことを話し出す。久六からの手紙には、一之宮多左衛門と喧嘩をするから兄弟分の次郎長も手を貸してくれと書いてあった。次郎長は、久六と兄弟分になった覚えもないため、なんて無礼な手紙だと思って破き捨てる。返事をしないままいると、久六が次郎長の元を訪れ、「次郎長が来ないため多左衛門に喧嘩で負けてしまった。尾張には決まりが悪くていられないから、これから次郎長の家に世話になる。兄弟分だからいいだろう」と次郎長の家に上がり込もうとする。次郎長はさすがに怒ろうとしたが、こんな馬鹿を殴っても仕方がないと考え、家に入れてやる。

<第八話「久六とおしゃべり熊」>

〽気障な文句じゃ あるけれど
思えばわっしは 幸せ者よ
自慢じゃねえが 次郎長一家
並ぶ乾分が 二十と八人
十人十色 それぞれに
互いに気っ腑は 違うけど
情けに弱く 義に強く
みんな揃って 親分思い
俺のためなら 命がけ
宿の噂の 戯れ唄に
清水港は 鬼より怖い
大政小政の 声がする
中で石松 可愛い男
涙もろくて 正直だが
酒を飲んだから 虎狼
喧嘩早いが 玉に瑕
馬鹿は死ななきゃなおらない〽

久六は次郎長の家で世話になるが、石松にいじめられる。

久六が次郎長の家に来て六日目、久六は、これからは上州邑楽郡館林・江戸屋虎五郎の家で世話になるから路銀に百両貸せと次郎長に迫る。癪に障った次郎長は湯呑で久六の頭を殴りつける。次郎長の子分たちも久六を殴りつけ、巴川に放り込もうとしたところ、久六は泣き出して許しを乞う。次郎長は十両の膏薬代をくれてやり、清水から久六を追い出す。

それから久六は、遺恨のあった一之宮多左衛門が死んだため尾張に戻ることができ、妹のおかげで今のような出世を遂げる。

〽さすが清水は 大立者 
急きも慌ても するものか
落ち着きはらって 物語る 
聞いた武蔵屋 周太郎が
気が短いから たまらない 
立ち上がれば 大きな声
さあ集まる 皆さんよ 
保下田久六は 悪いやつ
もしこの中に 久六と 
付き合いのある人は 今日から私は物言わぬぞ
言えば 大勢の中から五、六人 
声を揃えて 待て武蔵屋
俺と久六は兄弟ぇ分 
「なに」
「や」
兄弟ぇ分には違ぇはねえが 
そんな奴とは知らなんだ
今日から野郎と物言わぬ 
途中で会ったら 喧嘩をする
久六の乾分と見たら 命を取る 
そうだそうだと 一同が
声を揃えて 騒いだ折 
油断は大敵 最前より
縁の下にて この様子 
息を殺して 聞いていた男
これ余人にあらずして 
久六乾分で さる者あり
茨城生まれの 熊五郎 
こいつのあだ名が おしゃべり熊

話を聞いて驚いて 
捨てておけない 一大事と
行福寺を飛び出して 
戻りましたよ 保下田村
何にも知らない 久六は 
奥まりました 一間にて
火鉢の前に どっかとかいたよ大胡座 
朱塗りの膳を 脇に置く
二品三品の 肴を集め 
女房お花に 酌さして
好きなお酒を 飲んでいた 
ところにと 表より
戻りましたよ 熊五郎が〽

次郎長の話を盗み聞きした久六の子分・おしゃべり熊五郎が、久六の元へ戻る。

次郎長から聞いた久六の話を久六の前でそっくり話し、礼儀知らずの久六の子分と知られたら斬り殺されるから、今日限りで子分は辞めると言って久六の元を去る。

<第九話「久六の悪だくみ」>

〽おしゃべり熊が 愛想を尽かし あとは野となれ山となれ
出て行くあとを見送る久六 もとより心のねじけた奴
胸の怒りはおさまらず こういうことになったのも あの深見村長兵衛が
次郎長夫婦を助けたため お尋ね者を匿った お上を侮る憎い奴
きっと晴らすぞこの恨み 覚えていろよと思わず漏らす独り言
身から出た錆と言いながら みんな己が蒔いた種 それを悟らず気がつかず
見当違いの逆恨み 支度をなして久六が 我が家を後にただ一人 
参りました亀崎の 代官屋敷となりますと〽

久六は、義理の弟である代官・竹垣三郎兵衛に、次郎長の悪行をでっちあげ、召し捕りを願いでる。
 
その動きを察知した深見村長兵衛は、次郎長と石松に息子の長三郎を連れて逃げるように進言する。
 
間もなく代官の配下の者が長兵衛宅を訪れ、次郎長の行方を問いただす。長兵衛は時間稼ぎの嘘をつくも、次郎長を逃した嫌疑をかけられ、女房お縫とともに、代官所へ召し捕られる。

一方、次郎長一行は、山々を抜けて三河へたどり着いた。
 
〽︎その頃流行る子守唄 三河名物ご存知ないか うちわ太鼓に味噌の味
おっとまだある 長脇差親分衆の多いところ 
中に寺津の間之助さんは堅気に弱いがヤクザにゃ強い
人にこうよと頼まれりゃ 決して嫌とは言いませぬ 三州一の男伊達〽

三州一の貸元、寺津間之助の世話になり、二十日ばかり経ったころ、

〽︎女乞食がただ一人 仔細ありげに二度三度 
そっと覗いて行き過ぎる 油気なしの束ね髪 
身には綴れを纏えども 忍ぶ面影その姿
秋を彩る白菊か 清いゆかしい花の色〽︎

若い衆が、どことなく品のある女乞食を招き入れると、女乞食は次郎長に用があるという。実は、その女乞食は、長兵衛の女房お縫であった。

長兵衛とお縫が代官屋敷に召し捕られたのち、お縫はすぐに帰されたものの、十日ばかり経ったところで、長兵衛が牢死したと知らされたという。

︎〽︎知らせに死骸を引き取って 野辺の送りはすませたものの
明日に晩に手を合わせ 位牌を拝むたびごとに
攻め殺された痛ましい ありし姿が目に浮かぶ
さぞや無念であったろう 思えば悔しく恨めしく
尽きぬ悲しい涙が 乾く間もない胸の内
夫に変わりこの恨み 晴らしたいとは思えども
女の身ではままならず 保下田の身内の目を逃れ
我が家をそっと抜け出して あなたにお目にかかりたく
乞食姿に身を窶し 尾張を後に三河路駆けて心当たりを訪ねるうち 
仏の加護か導きか 西尾の治助親分から 今次郎長は寺津にいるぞ 早く行くがよいぞよと
言われた時のその嬉しさ 非業に死んだ夫の恨み 
どうか成仏できますように 仇を討ってくださいまし
男勝りと言いながら 溢れる涙堰あえず 堪え堪えた悔しさに 声を限りにわっと泣く 
聞いた清水の次郎長 膝の上に手を置いたまま しばし無言でおりました 
落つる涙を吹きながら〽︎

この話を聞いた次郎長は、久六と代官を斬る決意を固め、清水にいる子分たちを呼び寄せる。
 
大政、小政、大瀬半五郎、法印大五郎、増川仙右衛門、奇妙院常五郎、そして石松と次郎長の八人は、寺津に百両を用立ててもらい、尾張へと旅立ってゆく。

<第十話「次郎長の計略」>

〽︎角の柳の葉が揺れる 格子の外に人の影 土足裾取り旅人姿 肩に両掛け長脇差腰に
歳の頃なら三十一、二 粋な刷毛さき 五分月代で 色が黒くて目つきすごく 
頰には青い髭の後 片手に持った三度笠 兎の毛で突いた隙もない 
見るから鯔背な男ぶり この旅人は誰あろう 昨日追分明日は越後 
風に任せて旅から旅へ 所を定めぬ渡り鳥 信州沓掛時次郎〽

寺津間之助は客人時次郎より、次郎長が伊勢で亡くなったと聞かされる。

にわかには信じられない間之助であったが、時次郎自身が葬儀に参列したと知り、側で聞いていた間之助の女房お光と長兵衛の女房お縫は涙にくれる。

その後人払をした間の助は大笑い。

〽︎さては死んだか さすがは清水 こんな目出度いことはない 
お頭付きで強飯ふかし みんなで祝ってやろうじゃねえか 
正気の沙汰とは思えない おかしなことを言うものよと お光お縫が顔見交わして〽

〽清水がここを発つ時に 俺の身につきどのような 噂が立とうと大政から
頼りするまで寄越すまで 決して心配してくれるなと 残していった謎言葉
忘れはしまい覚えていよう 小幡で死んだと見せかけて 偽弔いを出した上
死んだ噂を広めたは 敵保下田の久六と代官竹垣三郎兵衛に 油断をさせる謀ごと
さすが清水は大立者よ 恩を忘れず義に強く 正しい者に味方して 悪を殺して花と咲く
街道一の男伊達〽

間之助の読み通り、次郎長の死は計略であった。次郎長一家は伊勢を出て、大阪の貸元音右衛門を頼り、博打からさらに資金を得て四国へと渡ったのであった。

金比羅様に、長兵衛の敵討ちを祈願して、四国をあとにする一行。

〽讃岐をあとに船の旅 白帆のどかに島から島へ 晴れておぼろな瀬戸の海
酒がはずめば言葉もはずむ 酔うてごろりとうたた寝の いつか淡路の沖越えて
鳴門の渦も夢の間に 着いた難波の淀屋橋〽

音右衛門に礼をして、いよいよ尾張へ。

〽︎五十三次東海道 飽かぬ別れの大阪の 関を過ぎれば近江路や 比良や比叡は夏がすみ
琵琶の湖横に見て 草津追分姥ケ餅 坂は照る照る鈴鹿を越えりゃ
関の名所は地蔵尊 恋の取舵七里の渡し 名古屋の城を遥かに眺め 熱田へ着けば道を外れ
二人三人ばらばらに 人目を避けて三度笠 行けばいつしか日が暮れて 
宵の灯りがチラチラ招く ここは亀崎宿半ば〽

一行は、大野屋という小さな宿屋に泊まることにする。

その宿屋の六十五、六になる親父は、一行を迎え入れると、

〽言いつつ立って土間へ降り なに思いけん軒先の 行灯のあかり吹き消すと 
大戸をおろして潜戸から そっと出て行く後ろ影 あと見送って次郎長が 
おかしな親父があるものよ ことによったら俺たちを 清水一家と気がついて
訴えにでも行ったのか 油断はならじと七人 思わず顔を見合わせた〽

店仕舞いをする親父を思い問いただすと、今日はほかの者は泊めないのだという。

その後も、酒に料理に、ともてなす親父を怪しんだ次郎長がその理由を尋ねると、なんと次郎長の子分だった鶴吉の父親・鶴右衛門だという。